重要ポイントのまとめ:
- 継続的なトレーニングが定着を促進: 継続的なトレーニングを提供している組織では、従業員の成長欲が満たされ、忠誠心が育まれることから、70%を超える従業員が定着すると言われています。
- 人財流動性に関するビジョンの共有: ハイパフォーマンスな企業は、コミュニケーション、テクノロジー、正式なキャリアパスに焦点を当て、従業員と組織を結びつけて成功を促進しています。
- 従業員の成長の支援: AIとスキルテクノロジーをオポチュニティマーケットプレイスと合わせて活用することにより、自律的なキャリアの探索と開発が可能になり、忠誠心と長期的勤続が促進されます。
従業員の能力開発を再考し人財流動性を高める
現在の仕事は、スキルとそれを有する従業員を中心に展開されています。人財不足やスキルギャップに直面している組織が増えている一方で、これらの組織で働く従業員はその組織に留まりたいと考えており、学びや成長に対して意欲的です。
Cornerstone People Research Labは、先頃、Lighthouse Research & Advisoryと提携し、組織が従業員の成長欲求をどのように満たすことができるかを明らかにする新たな調査を発表しました。その調査レポート「いざ、成長の時: インパクトの高い人財流動性のための構成要素」では、継続的なトレーニングと学習を提供する組織では、その組織に留まる可能性が高いと回答した従業員の割合が70%を超えているという結果が公表されています。
コーナーストーンのグローバル戦略イニシアチブ担当副社長Mike Bollingerが、Cornerstone People Research LabとLighthouse Research & Advisorが発表した2023年人財流動性調査の結果を詳しく分析します。
この人財流動性調査では、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)、北米、アジア全域の1,000人の従業員と1,060社の雇用主からデータを収集しました。このデータは、従業員が求める有意義でスケーラブルな成長機会を明らかにし、組織が人財とスキルギャップを埋めつつ、従業員の開発をより効果的に支援するのに役立ちます。
この調査からは、従業員の人財エクスペリエンスに関する理解を深めるための、次のようなインサイトが得られます。
- 従業員が新しい役割や機会に対する可視性を高めるための戦術
- 成長方法について、従業員による希望の違いを浮き彫りにする人口統計情報
- マネージャー、文化、テクノロジーを融合して一貫した人財流動性戦略を構築する方法
組織がスキルギャップを早急に埋める必要があるにもかかわらず、適切なスキルを持つ人財が見つからない場合、その解決策は案外身近にあるものです。従業員は自身の成長を望んでおり、組織とともに成長したいと考えています。人財流動性に投資することで、組織はキャリアアップの文化を育み、従業員体験を向上させ、従業員のための短期および長期のキャリアパスを構築することができるようになります。人財流動性に重点を置くと、組織と従業員の両方が、より大きくより迅速に成長を遂げることができます。ただしそれは、組織と従業員が協力して取り組む場合に限ります。
人財流動性とは何か、そしてそれが重要な理由
人財流動性とは、従業員をある役割から別の役割に異動させるプロセスを指します。これは、「4つの適切」と言い換えることができます。人財流動性により、適切なスキルを持つ適切な人財を適切な場所に、適切なタイミングで配置されることになります。
人財流動性とは、単に転勤ということではなく、組織がまだ発揮されていない従業員の潜在能力を発見することです。従業員を支援し、やる気を引き出している組織は、収益の向上、従業員の定着、キャリアアップ、そして従業員エンゲージメント向上の機会を生み出しています。人財流動性は、優秀な人財が充実感を感じ、定着しやすい活気のある企業文化の創出に役立ちます。
人財流動性が機能するのは、私たちが協力して取り組む場合に限られます。それは、従業員と組織の間のミッションとして共有すべきものです。私たちの人財流動性調査によると、従業員の定着率が高くハイパフォーマンスな企業には、共通して次のような3つの重点事項があることが分かりました。
- 正式なコミュニケーションプロセスとアプローチ
- テクノロジーを活用した戦略
- 確立された正式なキャリアパス
この調査では、従業員の73%が会社での新しい役割について学習することに関心があるということが分かりました。DEIB(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン、ビロンギング)を考慮する際には、女性は、社内のキャリア機会をまったくあるいはほとんど把握できていないと回答している割合が、男性と比べて50%高くなっているという点に注意することが重要です。
EMEA地域の組織は、従業員のキャリアモビリティに対して監督者主体のアプローチを採用し、キャリアアップの責任を主に直属の上司に担わせる傾向がありますが、一方で従業員自身は、その責任の主体は自分自身にあると考えています。EMEAの学習リーダーは、ワークフォースが成長機会を把握するための最も重要な方法は、マネージャーとの対話であると回答しています。
これは、より公平な職場を作るために重要です。というのも、社内のキャリアアップの機会を把握できない従業員の方が、退職や転職を検討する可能性が61%高いという結果が出ているからです。
人財流動性の重要な側面に関する詳細な統計については、こちらからCornerstone People Research LabとLighthouse Researchのページをご覧ください。
キャリアアップの文化を醸成する
競争力を維持するためには、従業員のキャリアアップを促進する文化を育むことが重要です。
1,000人の従業員を対象にして調査した結果、社内で昇進の可能性を感じない従業員は、社内の他の職席に関心を持たない可能性が約3倍高いということが分かりました。成功を維持するために、組織は、学習イニシアチブをより広範なスキル形成およびキャリアアップの取り組みと緊密に結びつける必要があります。
組織は、従業員が多様で透明性のあるキャリアアップの機会を探求できるようにすることで、従業員のエンゲージメントを高めることができます。私たちの調査で判明した点は次のとおりです。
- 帰属意識の高い従業員は、マネージャーが自分の個人的なキャリアアップを支援してくれたと答える可能性が190%高い
- 収益、従業員の定着率、エンゲージメントの統計データが優れているハイパフォーマンス組織では、マネージャーやリーダーが従業員の成長を支援したという回答の割合も高い
- 帰属意識の低い従業員は、組織内の他のキャリア機会を検討するつもりがないと答える可能性が2倍高い
従業員の帰属意識は人財開発(およびマネージャーの有効性)と密接に関わっており、職場で従業員がどのように意義を見出すかということを示す興味深い姿を描き出します。キャリアモビリティは、サポート力のあるマネージャーと一連の探索的人財開発ツールを通じて提供されるものであり、従業員と組織のつながりを再構築し、従業員自身が、本当に大切にされていると感じられる機会を生み出す上で非常に重要な要素となります。そして、そのようなつながりを得て、大切にされていると感じる従業員が組織に定着することになります。
調査では、雇用主が従業員のキャリアモビリティを支援するにはさまざまな方法があることが明らかになりました。EMEAでビジネスリーダーが回答した上位2つの項目は、パーソナライズされた学習と機会の可視性に重点を置くものでした。さらに、学習リーダーはモビリティの支援において非常に効果的なものとして、次の2つを挙げています。
- シャドウイングやステップアップにつながる課題などの正式なプロセス
- スキルと、現在の役割と将来の役割のスキルギャップを可視化するスキルダッシュボード
これらの2つのオプションを活用することによって、キャリアモビリティの責任をマネージャーからワークフォースに移し、従業員が追求したい自らの機会についてより大きな発言権を持てるようになります。
キャリアアップの文化を育む組織は、パフォーマンスを向上させ、未来に対応したワークフォースという点で成功を収めることができます。
従業員体験を超えて
学習と成長がサイロ化し、従業員が学べる内容や成長できる場所についての視野が狭くなると、優秀な従業員や組織のであっても、成長の足かせとなる場合があります。従業員体験のサイロ化を解消し、よりオープンで透明性のある機会に変えることができるのは、組織だけです。従業員は、見えていないギャップを解消するために成長することができるでしょうか?学習と成長のサイロを解消することによって、従業員にとってつながりのある、シームレスで包括的な人財エクスペリエンスを確保することができます。
私たちの2023年の人財流動性調査では、次のような分野で透明性のある柔軟なキャリアパスが従業員に提供された場合に、従業員の定着率が向上するという結果が出ています。
- スキルの追跡
- セルフサービス型のキャリアモビリティの探求
- アクセスしやすい学習とスキル形成の機会
- 従業員の能力開発オプションの可視性
職場への帰属意識のスコアが低い従業員では、雇用主が自分のスキルを認識しているかどうか分からないと回答する割合が6倍の高さになりました。比較検討してみると、キャリア開発機会の不足を理由に退職した従業員の90%は、そのような機会を把握でき、それを利用できていたとすれば、退職に至らなかったと考えられます。
ここで、新たに登場したのが「静かな」流行語です。「静かな採用」とは、端的に言うと人財流動性のことです。ある組織にすでに勤務している従業員が、役割を変え、新しい責任を引き受けて新しいスキルを学習します。組織は、既存の従業員という最大のリソースを活用して、スキルギャップや人財不足を解消していきます。「採用」とは名ばかりであり、「静かな」と言われていても実際のところは、従業員にとってむしろ多くのチャンスが開かれているものです。調査では、EMEAにおける社内キャリアアップ追跡のための主要な成功指標は、単純に量的なもの、つまり、スタッフの社内異動の件数となっています。
EMEAでキャリアモビリティと密接に関連する最近の職場でのトレンドに「リゼンティーズム」というものがあります。これは、従業員が不満を感じやる気を持てないにもかかわらず出社する行為を指します。リゼンティーズムによる生産性とパフォーマンスの低下は、従業員のキャリアを進めていく能力に影響を及ぼす可能性があります。従業員に成長機会とキャリアモビリティを提供するために、組織は次のような対策を講じることができます。
- 定期的なパフォーマンスレビューとフィードバック
- 専門能力開発プログラム
- メンタリングとコーチング
- 社内求人
従業員に成長機会とキャリアモビリティを提供することで、組織は従業員のリゼンティーズムへの対処をサポートできるだけでなく、組織の目標をより効果的に達成できる、エンゲージメントと生産性の高いワークフォースを構築することもできるようになります。
従業員の能力開発と人財流動性に投資すると、よりレジリエンスに優れ、未来に対応したワークフォースを確保し、従業員の定着率の向上と成功をサポートすることができます。
AIとスキルテクノロジーの活用
マネージャー、文化、テクノロジーを統合し、従業員のための一貫した人財流動性戦略を形成する短期および長期のキャリアパスは、2023年の成功にとって不可欠です。私たちの調査では、従業員の73%が新しい役割について学習することに関心を持っており、そのような役割の可視性を高めるにはテクノロジーを活用することが効果的な手段であるということが判明しています。
従業員の能力開発に関する会話をただ増やすだけでなく、技術的な探求方法が必要なのはなぜでしょうか?それは、テクノロジーを活用することで、人財流動性の機会の可視化が進み、よりアクセスしやすいものとなるからです。
組織はAIとスキルテクノロジーを活用して従業員を支援することにより、短期的および長期的な変化をもたらすことができます。従業員が、特に人財の流動化という点でサポートされていると実感すれば、職場への帰属意識が高まり、長く勤続する可能性が高まります。
従業員の10人中9人は、キャリア機会を探るためのテクノロジーが提供されると、キャリアアップと能力開発においてサポートされていると感じると回答しています。EMEAの組織の3分の1は、従業員が何らかのテクノロジーを利用してキャリア機会を把握できるようになっていると回答しています。また、従業員側では、マネージャーと直接会話するよりも、キャリアアップを模索するセルフサービス方式を好むという回答の割合が80%高くなっています。AI搭載のテクノロジーとデータベースの助けを借りることにより、組織は従業員の帰属意識をさらに高めることができます。
オポチュニティマーケットプレイスで従業員に投資する
タレントマーケットプレイスとも呼ばれるオポチュニティマーケットプレイスは、キャリア開発機会の単なる集合体ではなく、社内のキャリアモビリティを自律的に発見できる機会を提供するものです。これらのマーケットプレイスにより、会社への忠誠心が向上し、在籍期間を延ばすことが証明されています。
2023年の人財流動性調査によると、45歳未満の従業員は、45歳以上の従業員に比べて、新しいつながりやメンタリングを育成するプロジェクトへの参加意欲を持つ可能性が50%高いということが分かりました。従来のキャリアの階段だけでなく、柔軟なキャリアパスへの扉を開くことで、従業員をサポートすることができます。
調査結果からも分かるように、従業員は、自分のスキルを披露する機会、パーソナライズされた学習体験を得る機会、ギグ、特別プロジェクト、ジョブローテーション、ジョブシャドウイングなどのオプションを検討する機会、社内の専門家とのメンタリングの機会を求めています。従業員の半数以上が、社内でさまざまなキャリア機会を模索するオプションがあることによってその職に留まろうと思うようになったと回答しており、それによって職場での満足度が高まったと回答した従業員も47%にのぼりました。
オポチュニティマーケットプレイスで従業員の満足度と会社への忠誠心を維持するための最も重要な要素は、従業員が社内の他のキャリア開発の機会を探求したいと考えたときに、それによって現在の雇用が危ぶまれることはないということを徹底することです。私たちの調査によると、「従業員が退職を考えている場合、現在の仕事を危険にさらすことなく新たな機会を模索することが、その従業員が最も重視する点だ」ということが分かりました。
従業員が透明性のあるオポチュニティマーケットプレイスを利用できる状態にしておくというのは、従業員の定着と長期雇用にとって不可欠です。
2023年に人財流動性で成功するために
人財流動性とオポチュニティマーケットプレイスは、その有効性を明確に描き出しています。市場の状況が変化し続ける中で、雇用主には、適切な従業員を引き付けて定着させるための戦略的な方法が求められています。社内でのキャリア探索と流動性は、組織的なニーズと従業員が望むキャリアアップをより高めていくための重要な方法です。人財流動性への投資によって、キャリアアップを促進し、従業員体験を向上させ、従業員の短期的および長期的なキャリアパスを開発する機会が生まれます。コーナーストーンでは、人財流動性の取り組みを改善し効率化するのに役立つ、独自の革新的な製品をご用意しております。
戦略的で調査に基づくコンテンツに支えられた人財流動性は、変化する業界で一歩先を行くための必須項目です。組織は、新しい役割に進む準備ができているのは誰か、新しい職席に進むために追加のスキルを必要としているのは誰かということを把握しておかなければなりません。プラットフォームによる人財流動性は、スキルアップのためのコンテンツを組織に提供することで、従業員と企業の成功を支援します。人財管理責任者は、人財流動性の取り組みを支援するために、世界中で2,750万時間を超えるコンテンツをCornerstone Content Anytimeプラットフォームでストリーミングしてきました。これは他の企業学習プラットフォームの6倍以上のボリュームになっています。従業員にキャリアモビリティを提供するだけでなく、人財流動性をサポートするインフラも不可欠です。
人財体験プラットフォーム(TXP)を使用すると、戦略的な人財流動性のインフラを一元的に管理することができます。ここでは、包括的なパートナーシップを通じてレジリエンスと即応性を確立し、人財流動性戦略を拡大することが可能です。人財流動性は従業員がすでに使用しているシステムに統合されており、どこにいても学習と成長を優先させることができます。Cornerstone TXPは、組織が従業員のキャリア機会を見出し、準備を整えることで、組織が人財を引き寄せる磁石のような存在となり、採用された従業員が定着するようサポートします。
変化の著しい現代社会では、人財不足は珍しいことではありません。HRリーダーは、透明性が高くアクセスしやすいキャリア探索オプションを活用して従業員の学習、成長、定着を強化し、組織がより安定し繫栄する未来に向けて成長し続けられるよう、人財流動性を高めることに重点を置く必要があります。


