- 従業員が自分の学習がキャリアアップにどう結び付くかを見通せないと、どれほど巧みに設計された能力開発プログラムであっても、定着を促すどころか逆に退職を招く要因になってしまいます。
- スキルベースのフレームワークがあれば、従業員は明確な次の道筋を複数把握することができます。これを導入した組織は、優秀な人財の定着率が98%高くなっています(Deloitte、2023/01/01)。
- 能力開発計画についてマネージャーが可視性を持つというのは、HRリーダーが活用できる定着改善手段ですが、この手段は十分に活用されているとは言えません。
- 測定指標を修了率からケイパビリティの成果にシフトする事により、人材開発はコストセンターではなく戦略的なビジネス機能になります。
ほとんどのHRリーダーは、能力開発は定着率を高めるための重要な手段であることを理解しています。しかし、多くの能力開発プログラムが本来の約束を果たせていない理由については、まだよく理解されていません。たとえコンテンツの質が高く、十分な投資がなされており、従業員が実際にその内容に積極的に取り組んでいる場合でも、そのような状況が発生します。
ほとんどの場合、学習自体には問題がありません。しかし、従業員が修了すべき内容と、それが組織内での自分の将来にとって何を意味するのかという点とのつながりが見えなくなっています。そのつながりが失われると、プログラムが優れたものであっても、知らず知らずのうちにエンゲージメントが低下していき、最終的には離職を招くことになります。
学習がキャリアアップに結び付いていないときに従業員が離職するのはなぜでしょうか?
従業員の立場から、その体験がどのようなものかを考えてみましょう。従業員は、あるシステムで必須トレーニングを修了し、別のシステムで目標を管理しています。スキルが重要だと伝えられてはいるものの、そのスキルはまったく別の場所に存在していて、それらの間には目に見えるつながりがまったくありません。この場合、当然のことながら、「それは何の意味があるのか」という疑問が浮かび上がってきます。
自分の成長が組織内での実際のキャリアアップにどう結びつくのかを見通せない従業員は、やがてその機会を社外に求めるようになります。そして、その判断の後押しとなる不満は、きわめて理にかなったものだと言えます。調査では一貫して、キャリア開発の機会不足が自発的離職の主要な要因の1つであることが指摘されています。また、リクルーティング、オンボーディング、生産性の損失を考慮すると、熟練した従業員を失うことによる経済的コストは重大なものです。
ほとんどのリーダーは、能力開発の重要性を理解しています。課題は、その意図ではなくインフラにあります。学習、スキル、キャリア目標が、それぞれ別々のシステム内に存在し、互いに意味のある形で連携できていない場合、そのつながりは、組織によって意図的に可視化されてはおらず、従業員自身が自力で関係性を見つけ出さなければならなくなります。
学習とキャリア開発のつながりとは、具体的にどのようなものか
ばらばらなプログラムをつながりのある能力開発へと移行する際の重要な課題は、基本的にアーキテクチャの問題です。問われているのは、学習とキャリアアップの関係が明確に分かるようにシステムが設計されているか、それとも従業員が自分自身で学習とキャリアップの関係を推し量らなければならないままになっているのか、という点です。
真のつながりがある状態とは、従業員が、特定の役割や機会に向かって進むためにどのスキルを開発する必要があるのか、そのスキルを身につけるにはどの学習が有効なのか、そしてそのパスの中で自分がどの段階にいるのかを、正確に把握できる状態です。それは、別々のシステムの中にある個々のデータポイントとしてではなく、一貫性のある単一の全体像として見るということです。
これが重要である理由を、いくつかピックアップします。
- 第一に、それによって育成に明確な目的が生まれ、学習への継続的な関与を促すうえで最も強力な動機づけとなるからです。
- 第二に、マネージャーが、あいまいなチェックインではなく、有意義な能力開発に関する面談を行うための背景情報を得ることができるからです。
- そして第三に、組織は学習への投資が単なる修了率だけでなく、実際に能力向上につながっているかを把握するためのデータを得ることができるからです。
「ブラックボックス」的なキャリアアップから、構造的で透明性の高いキャリアパスへの転換が、人財定着のための最も重要な要因となっています。
- 自主離職者の45%は、離職前の3か月間に、自分の仕事の進め方について積極的に話し合う機会が、マネージャーやリーダーからほとんど提供されなかったと回答しています。(Gallup、2024)
- 社内の人財流動性が高い企業では、人財流動性が低い企業と比較して、従業員の定着期間が平均60%長くなっています。(LinkedIn、2023年)
スキルベースのアプローチによって定着と社内の人財流動性が改善する理由
有力な組織が能力開発へのアプローチを変える上で起きている、最も重要な変化は、役職名ベースの思考から脱却し、スキルベースのフレームワークへと移行することです。実際に、その違いは実に有意義なものです。
能力開発を役職名と結びつける場合、キャリアップは直線的になり、多くの場合は狭い範囲に限定されます。一方で、スキルを軸とすると、従業員は複数の道筋を見つけ、自分がすでに持っているスキルや知識を把握したうえで、どこに焦点を定めるべきか、情報に基づいた選択ができるようになります。その主体性の感覚そのものが、定着の要因となります。
データを見るとその効果は一目瞭然です。スキルベースのアプローチを採用している組織は、人財を効果的に配置できる可能性が107%高く、優秀な人財を維持できる可能性も98%高くなっています。さらに、成長できる場としての評判も確立されています(Deloitte、2023)。これは、従業員がその組織を去らなければキャリアアップできないと感じるのではなく、組織内で本物の機会を見出していることを示す力強い指標です。その結果、社内の人財流動性があれば、ビジネスをすでに理解している従業員が担うことができる職務を社外採用によって充足させた場合のコストと混乱が軽減されることになります。
これがHRリーダーにとって実務上どのような意味を持つかというと、スキルフレームワークが学習の推奨、人財に関する意思決定、キャリアに関する対話、そして能力開発が実際に機能しているかどうかを示すデータなど、あらゆるものと結びついていなければならないということです。
マネージャーが能力開発計画を可視化することにより、従業員の定着がどのように改善されるか
能力開発が実際に定着するかどうかを左右する要因の中でも、マネージャーの関与は最も見過ごされがちなものの1つです。マネージャーと能力開発に関する面談を行い、マネージャーが従業員の能力開発計画を把握して実際に関与している場合、その従業員は取り組みをやり遂げる可能性が格段に高く、自身の成長が真剣に受け止められていると感じ、組織に定着する可能性も高くなります。
ほとんどの組織において、課題は、マネージャーが自分のチームメンバーが能力開発面で何に取り組んでいるか、それがチームのスキルニーズとどのように結びついているか、あるいはどのような進捗状況にあるかを明確に把握できていないという点にあります。能力開発は、組織が従業員と協力して実践するものではなく、従業員がそれぞれ個別に行うものとなっています。
人財開発計画が従業員とマネージャーの双方に対して同じ場所で可視化され、さらに、それらの計画が単なるコースのリストではなく、スキルやキャリア目標に直接結び付けられている場合には、能力開発に関する対話の質が向上します。マネージャーは、どのようなサポートが最も役に立つかを推測で判断するのではなく、具体的な計画に基づいてコーチングを行うことができます。従業員は、単に事務的な処理を通過しているのではなく、自分をしっかり見てもらえていると感じるようになります。
修了率だけでなく学習成果を測定する方法
多くの人財開発部門にとっての不都合な真実とは、修了率という評価指標は、追跡しやすいものの、本当に重要な成果、つまり、能力向上、パフォーマンス向上、キャリアアップを評価する指標としては不十分だということです。測定の焦点を活動量から成果へと移した組織は、事業部門との関係性そのものが本質的に変わり、人財開発がコストセンターではなく、戦略的な価値を生み出す存在として捉えられるようになったと回答しています。
この移行を実現するには、多くの組織がまだ達成できていない方法で学習データを人財データと結びつける必要があります。つまり、誰が何を修了したかだけでなく、学習を通じて育まれたスキルが応用され、認知され、それに対して報いられているかを把握しなければならないということです。そのためには、ばらばらのレポートから人が手作業でそれらの関係を構築しなければならない状況から脱却し、そのつながりを可視化するシステムを導入する必要があります。
そのインフラが整備されれば、対話もあるべき方向に向かっていきます。リーダーは、学習に関する投資対効果について正当な主張ができるようになります。従業員は、自分の能力開発が、有意義な目標に向かっているということを認識できます。そして組織は、ケイパビリティが伸びている場所と、まだ注意が必要な場所をより明確に把握できるようになります。
自社の学習およびキャリア開発の体験を監査する方法
学習とキャリアアップの間のギャップを埋めたいと考える人事担当者および人財管理責任者にとって、その出発点となるのは、従業員の視点に立って現在の体験を率直に見直すことです。
- 今、組織内のスタッフは、自分の開発計画を見て、その各要素が自らの目標達成にどのようにつながっているかをはっきり理解できるようになっているか
- マネージャーが把握し、意味のある形で関与できているか
- 従業員が伸ばしつつあるスキルと、その人物が利用できるキャリア機会との間に一貫したつながりがあるか
これらの質問に対する答えが不明瞭であったり、「いいえ」であったりする場合、その根本的な原因は、往々にして、モチベーションやコンテンツの品質ではなく、つながりの有無にあります。
コーナーストーンによって学習と成長がどのように結び付けられるかについての詳細はこちらをご覧ください。
学習を業務の流れに組み込むことにより、その結びつきを意図的に可視化する方法についての詳細については、当社のeブック『見えない学び: 仕事をしながら自然に進む学び』をご覧ください。
よくある質問
人財開発プログラムによって定着率が改善しないのはなぜですか?
ほとんどのプログラムが失敗する理由は、コンテンツの質が低いからではなく、従業員が学習と組織内での実際のキャリアアップがどのように結びついているのかを把握できていないからです。その結びつきが見えなくなると、能力開発の目的が失われたように感じ、エンゲージメントが低下します。
学習とキャリア開発のつながりとは何ですか?
つながりのある学習とは、従業員が、特定の職務を達成するために必要なスキル、そのスキルを構築するための学習活動、そして自分の現在の進捗状況を一元的に確認できることを指します。それによって、ばらばらのシステムではなく、単一で統一された能力開発の全体像が得られるようになります。
スキルベースのアプローチが社内の人財流動性の向上につながるのはなぜですか?
スキルベースのフレームワークは、役職名にとらわれる硬直した考え方からの脱却を促し、従業員が複数のキャリアパスを可視化できるようにするものです。このアプローチを導入した組織は、人財を効果的に配置できる可能性が107%高くなっています。それにより、コストのかかる社外からの採用が減少し、組織内でのキャリアアップが可視化された状態となります(Deloitte、2023)。
マネージャーの関与は、従業員の能力開発と定着にどのような影響を及ぼしますか?
マネージャーが従業員の能力開発計画を把握し、積極的に関与している場合、その従業員は、学習をやり遂げる可能性が格段に高く、自分の成長が評価されていると感じ、組織に留まる可能性も高い傾向があります。能力開発は、単独で行われるよりも、協力によって行われるときに最も効果を発揮します。
HRリーダーはコースの修了率ではなく、何を測定すべきですか?
重要な指標は能力向上、実務におけるスキルの応用、キャリア目標に向けた進捗です。修了率ではアクションを把握することはできますが、学習への投資がビジネスに必要なケイパビリティを実際に構築しているかどうかを示すのは、成果を重視した測定です。
組織の学習とキャリア開発におけるギャップをどのように把握できますか?
まず、次の3つの問いを立てます。「従業員は、自分の能力開発計画が自分のキャリア目標にどのようにつながっているかを明確に把握していますか?」「その計画に対してマネージャーが意味のある形で関与できていますか?」「従業員が伸ばしつつあるスキルと、その人物が利用できるキャリア機会との間に目に見えるつながりがありますか?」いずれかの回答が不明瞭だったり、「いいえ」であったりする場合、ギャップの原因は、往々にして、モチベーションやコンテンツの品質ではなく、つながりの有無にあります。
![[事例講演]東北電力様:「ビジネスモデル転換に向けた人財戦略と学びの変革」](/_next/image/?url=https%3A%2F%2Fcdn.sanity.io%2Fimages%2F43ea2a5t%2Fresources-new-3%2F3e76f640c7abd87cda1cd8777ba2bb1440599388-2880x1620.jpg&w=3840&q=75)

